アメリカでは、11月の第三木曜日に開催される感謝祭(Thanks Giving Day)を皮切りに年末商戦が本格的に始まります。全米小売協会によると、感謝祭から翌週の月曜にあたるCyber Mondayにかけて約1.74億人(前年1.64億人)が買い物をしました。Cyber Mondayとは、感謝祭後の週末に買い物リストを決め、月曜に会社のパソコンから注文が集中した背景から誕生しました。近年、スマホショッピングの利用増加を受け、セール期間が前倒しで開催されるようになり"Cyber November"と呼ばれるようになっています。この時期は実店舗を展開する大手小売にとっても書き入れ時で、各社オンラインショッピングにも積極的に取り組んでいます。
◎年末商戦に大きな影響を与えるスマホショッピング
全米小売協会によると、スマホ利用者の約6割はスマホで情報収集や商品を吟味し、約3割がスマホで購入するなど、スマホショッピングは年々年末商戦に大きな影響を与えています。尚、Criteoによると、2016年のBlack Fridayのモバイル経由の購入率は29%のところ2017年は40%に増加しました。特に、注目されるのは2017年は感謝祭の 2 - 3 週間前からオンラインショッピング利用が増え、ピークが分散化したことが挙げられます。これは、多くの小売事業者がセールを前倒ししたことが伺えます。
2016年と比較した日別オンラインショッピング利用の増減状況
<情報源:Criteo>
Amazonなどのオンライン専業者だけでなく実店舗を持つ大手小売事業者も、この時期オンラインショッピングに注力しており、オンライン売上を伸ばしています。全米小売協会が発表したチャネル別購入割合では、7割以上がオンラインショッピングの経験を持っています。一方で、実店舗のみは3割以下となりましたが、一定数を占めていることが伺えます。
各社の感謝祭期間の売上状況(感謝祭り前の4週間平均との比較)
<情報源:Edison Trends>
全米小売協会発表のチャネル別購入状況
<情報源:全米小売協会>
<今年のハイライト>
- ショッピング人数:1.74億人(内訳:オンライン+実店舗 6,400万人、オンラインのみ 5,800万人、実店舗のみ 5,100万人)
- 日別ショッピング人数:平均購入金額:335.47ドル(ミレニアル世代がけん引し、平均購入金額は419.52ドル)
- スマホショッピング利用率:63%(スマホで購入完結:29%)
- 年末商戦期間(11月-12月)の売上は約1,080億ドルで、その内23%がスマホ経由。
- オンライン:Black Friday(6,600万人)、Cyber Monday(8,100万人)
- 実店舗:Black Friday(7,700万人)、Small Business Saturday(5,500万人)
- 業種別買い物先利用状況:百貨店(43%)、オンラインショッピングサイト(42%)、家電屋(32%)、アパレル&アクセサリーストア(31%)、ディスカウントストア(32%)
- よく購入された商品:アパレルやアクセサリー(58.5%)、玩具(38%)、書籍やメディア(31%)、エレクトロニクス(30%)、ギフトカード(23.5%)
◎Amazon、Cyber MondayがPrime Dayを上回る640億商品を販売!
Amazonでは、2017年のCyber MondayがPrime Dayを上回り大成功を収めたことで注目を集めました。昨年に引き続き"50 Days of Black Friday Deals"と題し、長期間のセールを実施。Cyber Monday当日は、1秒当たり740商品、1日で640億商品が世界中で販売しました。売筋商品としては、Echo DotやFire TV StickなどのAmazonオリジナル商品を筆頭に、次いでInstant Pot DUO80(昨年売上ナンバーワンを誇った万能炊飯器)、TP-Link Smart Plug(Alexaを使い音声コントロールで家電操作を可能とするスマートプラグ)、23 and Me DNA Testing Kit(遺伝子検査キット)などでした。Slice Intelligenceの調査によると、小売全体のCyber Week(感謝祭前の火曜からCyber Mondayまでの一週間)におけるAmazonのシェアは、約3割を占めました。
2017年の注目の取り組みとしては、買収したWhole Foodsの店舗ネットワークを活用したオムニチャネル対応が挙げられます。例えば、店舗を物流拠点にし商品受取や配送サービスを提供したほか、一部店舗ではAmazon EchoやKindleなどを割引価格で販売。さらには、Prime会員には限定で、七面鳥などWhole Foodsの一部の商品を優待販売しました。
このほかに、11月初頭には同社のアプリをAR対応し、家具などの大きな商品を部屋の中に設置した際のサイズ感を試すことをできるようにしました。また、Amazon Echoユーザーに対して、Alexaを使用した音声商品検索・購入で、7時間早くセール品を購入できるようにしました。
さらに、クリスマス直前になると、KindleやAmazon Echoを中心に直前の大幅値下げを行うと同時に、Prime会員向けのクリスマスイブの当日配送サービスをアピールしていき、Procrastinators(ギリギリまでショッピングをしない層)の獲得を狙いました。
引用:amazon 公式YouTubeアカウントより"Introducing AR view"
Amazon AR アプリを使用方法(動画)
◎Walmart、楽しいイベント開催で実店舗来店促進狙う!
Walmartは、オンラインでも業界最安値をアピールするために、Christmas Ad Match(競合よりも高く販売した場合差額を返金)やDare To Compare(競合サイトとの価格比較)に取り組みました。さらに、以前から提供する店舗受取での割引サービスもアピールしていきました。その結果、感謝祭からCyber Mondayまでの期間における購入者数はAmazonとは同じ9,700万人となり、さらに、オンライン販売価格差もわずか0.3%(前年3%)となりました。
実店舗での来店促進策として、11月から12月にかけてサンタと遊ぶ会や楽しいホームパーティーの開き方教室、ギフト選び講座など約2万回イベントを開催し、食品など一部商品についてはオンラインよりもさらに特化で提供するなど、来店するきっかけ作りに取り組みました。
スマホアプリを使った新しいサービスにおいては、例えば、アプリで商品バーコードを読み取りそのまま購入すれば、レシートを店員にみせるだけでレジに並ぶことなく商品を持ち帰ることができる"SCAN & GO "を提供。さらに、返品もアプリ内で申請することで、翌日口座に返金される"Mobile Express Returns"サービスも開始しました。また、クリスマスイブぎりぎりにプレゼント購入する人向けには、オンラインショッピングサイトで注文した商品をその日の夕方6時までに店舗で受取れるサービスも提供しました。
Toys That Rockイベントの模様
<情報源:Walmart>
◎その他大手小売の取り組み
ここでは、Cyber Weekにおけるその他大手小売の新しい取り組みについて紹介します。
Target:
- 新たにGoogle Homeを活用した音声ショッピングに対応。Google Express(Googleの宅配サービス)を使ってTargetの商品を購入できるようにした。
- 返品交換を減らすため、オンラインショッピングで新しいギフトショッピングサービス"GiftNow"を提供。受取主に、デジタルギフトとして商品情報を提示し、交換が必要な場合、その商品を受取前にオンライン上で変更手続きを行うようにした。
Best Buy:
- 新たにカスタマーサポートサービスとして、家電設置サービスに加え、顧客の自宅でサポートする"In-Home Consultation"を提供開始。このサービスでは、自宅のスマートホーム化、Wi-Fiのセットアップ、ホームシアターの設置などの計画にあわせて、専門アドバイザーが自宅を訪問し、間取りやスペースにあわせた商品のレコメンデーション、工事日の調整などのアドバイスを行う。
Macy's:
- 通常99ドル以上の購入から送料無料とするところ、49ドルにまで引き下げを行ったほか、昨年に引き続き"No Hurry Shipping"(ゆっくり配送)も実施。同サービスでは、
最長 6-9日ほどで商品が届く代わりに、次の買い物で利用できるMacy's Moneyをはじめとするインセンティブを提供しました。
Kohl's:
- 毎年感謝祭に実施する独自のリワードポイント(Kohl's Cash)の還元キャンペーンを2017年はキャンペーン期間を大幅に拡大。さらに、還元率もあげた。
Saks Fifth Avenue:
- オンラインショッピングサイトとFacebook内で、"Saks Holiday Gift Guide"というチャットボットを提供。4つの質問からプレゼントを贈る相手の好みを聞き出し、オンラインショッピングサイトで取り扱うオススメ商品をレコメンドする。
◎アメリカ以外の状況
Shopifyでは、2017年に初めてBlack FridayからCyber Mondayにかけてグローバルにオンラインショッピングの最も多い都市を発表しました。同発表によると、ほとんどの都市がニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなどと北米が占めるなか、2位にロンドンがランクインしました。アメリカ以外の地域においてもBlack FridayやCyber Mondayのセールが取り組まれていることがわかりますね。以下では、イギリスはじめ、ヨーロッパ主要国における動向について紹介します。
イギリス:小売事業者Top100の内94%がBlack Fridayセールを開催
- IMRGによると、イギリスにおけるBlack Fridayセールは11月22日ー11月27日にわたり開催。小売事業者ランキング上位100社の内約94%が取り組んだ。
- ショッピングのピークがBlack Friday当日となり、通常の金曜日と比較し売上は515%増、またCyber Mondayも通常の売上の2倍となった。
- オンラインショッピングサイトの訪問割合は、Amazonが約25%でけん引し、次いでeBay(5.5%)、Argos(3.
9%)、John Lewis(2.6%)、Currys(2%) - 全体的にセールに取り組む動向にあるなか、老舗百貨店のHarrodsはブランドイメージの保持のため、今後もディスカウントで商品販売をしない意向を示しました。
- 数年前よりイギリスでBlack Fridayを開催するようになったAmazonは、今年初めてポップアップストアを開いた。
ドイツ:Black Friday、オンライン売上は全体の25%!実店舗が人気
- Pepper Mediaによると、その認知度は約9割となり、約6割はセール
期間中に買い物を計画。 - 価格比較サイトMydealz.deによると、前年と比較してBlack Fridayのサイト訪問率は58.1%、約749万人。
- Black Fridayセールの長期化やモバイル経由の購入(70%)がトレンドとなっている。
- オンライン販売では、Amazon、eBay、Ottoの3社がけん引。オンライン売上は、年末商戦時期における小売売上の約25%程度。
- Black Fridayは盛り上がりを見せる一方で、ドイツではAmazonが11月24日からストライキに入るなど労働環境の課題が露呈した。
フランス:Amazon、フランス史上最も多い注文数を記録!>
- Black.Friday.Saleの発表によると、約1,500万人が買い物をし、売上は前年比30%増。一人頭の購入金額は約118ユーロ(前年比6ユーロ増)。
- 上位売上商品として、アパレル・ファッション関連(37%)、電子関連製品(19%)、インテリア・ガーデニング製品(11%)が挙げられる。
- 購入者属性は、女性の購入割合が多く(62%)、年齢別では25-34歳(29%)が最も購入金額が多かった。
- フランスにおいてもAmazonが市場をけん引し、売上が前年対比40%増。1分あたり平均1,400件もの注文を処理し、フランス史上最も注文が殺到した日となった。
- ローカルのオンラインショッピングサイトではCdiscountも多くの利用者を集め、Black Fridayで通常営業日の5倍の売上となる430億ユーロを記録。
2017年の年末商戦は、Bloombergによると、Amazonのシェアが約9割を占めるなどひとり勝ちとなりました。一方で、この状況は過去4年間変わっておらず、Macy'sを筆頭に各社様々な施策を打ち出すことで店舗で購入する顧客を囲いこみ、シェアを維持しているようです。Amazonを含め大手小売の年末商戦における販売戦略としては、感謝祭前後の前半ではバーゲンハンターに対して割引セールをアピールし、クリスマスが近づく後半においては、Procrastinators(ギリギリまでショッピングをしない層)に対してクリスマスイブ当日までの配送保証や当日の店舗受取をアピールする傾向がみられました。さらに、全体的な大手小売業者の取り組み傾向として注目されるのが、上記で挙げたような「スマホショッピング」への対応強化です。一方で、報道によるとスマホ対応遅れを含むテクニカルイシューにより、Cyber Week期間中に18.8億ドルもの売上機会損失が発生したことが話題となるなど、年末商戦においてへのスマホショッピングの対応如何によって勝敗が決することが伺えます。今日、アメリカ以外の国でもCyber Weekは徐々に浸透してきており、今後、その他地域においてもアメリカと同様に小売事業者のスマホショッピングへの対応強化が進むでしょう。
(Ms Everyday Holiday)