この度、トランスコスモスは「海外ECハンドブック2019」を発売いたしました。本書では、世界の主要な国・地域30市場について、定量および定性データをまとめております。発売を記念して、今回は「数字で振り返る2018年のグローバルB2C EC市場」と執筆に携わったメンバーのイチオシ・トピックスをご紹介します。
数字で振り返る2018年グローバルB2C EC市場と今後の展望
- 2018年のグローバルB2C EC市場規模は、前年対比120%の約3兆6,330億ドルとなり、今後も年平均13.8%の成長率で拡大し、2028年には約13兆2,352億ドルにまで拡大すると推計される。
- 地域別では、アジア太平洋地域が引き続きグローバルEC 市場をけん引し、グローバルシェア約6 割を占める。今後10 年で約7 割にまで拡大するとみられる。
- 国別で比較すると、中国市場の規模・成長率は世界最大の規模(1兆6,569億ドル)を誇り、圧倒的な存在感を見せている。成長率に関しても、引き続き18%程度の高い数値を維持しており、EC化率も30%。
- もうひとつの注目市場として、インド市場(576億ドル)が挙げられる。2025 年には世界第5 位の市場規模に拡大する見込み。
- その他地域を見ていくと、アメリカ、イギリス、フランスなどの欧米主要国や中国を除く東アジア地域などは、今後も平均5~15%程度の成長率を維持し安定成長する見通し。
- また、東南アジアや南米を中心とした新興国は、市場規模は小さいものの社会インフラ整備が急速に進み、今後も平均10~25%と高い成長率で拡大する見込み。
<世界のB2C EC市場規模推移(2018年-2028年)>
出典:インプレス出版「海外ECハンドブック2019」主要国のECの現状と将来展望 世界のEC市場予測 P14
<各国のB2C EC市場のポテンシャル(2018年〜2028年)>
出典:インプレス出版「海外ECハンドブック2019」主要国のECの現状と将来展望 30の国・地域のEC市場ポテンシャル P16
執筆メンバーイチオシトピックス
■日本:「楽天、アマゾンジャパンと物流で対抗!相次ぐ提携で「楽天スーパーロジスティクス」を強化」
宅配ニーズの多様化に対応するため、アマゾンジャパンと楽天は、それぞれ物流への投資を増やしている。アマゾンジャパンは、不在時の再配達削減に注力しており、2019年3月からデリバリープロバイダ(地域限定で稼働する委託提携先)が届ける荷物を玄関や車庫などに置く「置き配」を開始。 一方、楽天は自前の物流網構築の強化のため2018年7月に「ワンデリバリー」構想の本格化を発表した。2,000億円を投じて、購買データやAI技術を用いて受注予測・在庫最適化を実施し、配送スピードの向上と倉庫作業・配送コストの削減を目指す。これに向けて、中国大手EC事業者のJDを始め複数社との提携も発表している。なお、送料に関しても、8月には送料無料の統一化を発表し、3,980円以上の購入に対して全店舗共通で「送料無料」とした。
これまでもアマゾンと楽天は国内シェア争いで、ポイントなどのサービス充実による顧客の囲い込みに取り組んできましたが、楽天は、ついにその範囲を物流にまで広げてきました。なかでも目玉施策の「送料無料ライン」は、加盟店の反対や公取委の介入により大きな話題になりましたよね。全店一斉導入は延期となり、現在、一部店舗での導入に留まっています。楽天が全店舗での「送料無料ライン」を実現するにあたり、今後、どのような施策を打ち出していくか注目していきたいと思います。
※追記:5月13日発表の「2020年度第1四半期」によると、すでに送料無料ラインを導入している店舗は8割となっています。
■中国:Alibabaの「ニューマニュファクチャー戦略」、外資ブランドと積極的提携
2018年、杭州で開発者向けに開催された「2018杭州云栖大会」で、AlibabaのJack Ma前会長が「ニューマニュファクチャー戦略」について言及した。これは、自動化された工場の機器や設備のIoT化で、生産効率の向上を図ることを目的としている。EC分野で、このニューマニュファクチャーを推進する上で、研究開発機関であるTMIC(Tmall Innovation Center)を設立しており、同センターで自社のECサイトのデータを活用しブランドの商品開発を支援している。すでに、多くの実績を挙げており、Unilever、L'Oreal、資生堂などがTMICと共同で開発した商品を製品化している。特に、資生堂は「資生堂・Alibaba戦略連携オフィス」を新設するなどTMICとの連携に注力しており、新商品第一弾として、スカルプシャンプーを共同開発している。
アリババは、ニューマニュファクチャー戦略を打ち出すことで、ブランドが多様化する消費者ニーズに応えるために商品の「カスタマイズ」や「パーソナライズ化」を支援しています。注目を集めた資生堂との提携では、独身の日(11月11日)に共同開発した新商品が1万点以上も販売されたそうですよ。2020年に入り、タオバオでオンデマンド販売サービスの開始や、国産ブランドの商品開発支援などの新しい施策を発表しています。これから、さらにニューマニュファクチャーの取り組みは発展していきそうですね。
■アメリカ:ネットで注文して店舗で受け取るBOPISが浸透!
アメリカのオンラインショッピングにおける商品の配達手段として、約9割が宅配を利用している。しかし、アメリカでは配達時に不在の場合、玄関先にそのまま置いていくことが一般的であるため小売事業者は宅配よりも安全でかつ利便性の高い、ネットで注文して店舗で受け取るBOPIS(Buy Online Pickup In Store)の導入に積極的に取り組んでいる。これは、店舗側にとっても来店に寄るついで買いにつながるメリットも多い。Walmartでは店舗受取ロッカーやセルフピックアップ専用機「Pick Up Tower」の導入に取り組んでいる。また、小売事業者に留まらずAmazonといったEC事業者でもBOPISの展開がみられ、同社は2017年に小売大手Kohl'sと提携しAmazonで注文した商品の返品受付を開始。また、2019年には大手ドラッグストアRite Aidと提携し受け取りサービスを開始している。
BOPISは、元々実店舗を持つ小売やメーカーにとって、企業と消費者の双方にメリットがあるということから、EC事業者との差別化を図れるとして必須の施策とされてきました。ところが、Amazonを筆頭にEC事業者も導入も始まり、受取に留まらず返品と多様化も進んでいます。最近では、コロナの影響を受け、飲食店でもテイクアウト形式のBOPIS導入も進んでいますね。こういった動きは、アメリカ以外でも見られていますが、オンラインショッピングの受取方法の新定番として定着しそうです。
■インド:GoogleとFacebook、インド小売り市場に本格参入
現状、外資系小売事業者としては、AmazonとWalmartが積極的にインドのローカル市場に参入しているが、2018年末からFacebookおよびGoogleが相次いでインド市場に参入している。2018年12月、GoogleはGoogle Shoppingのサービスを提供し始めた。また、2019年6月に、Facebookが地場ソーシャルコマースサービスMeeshoを買収したことを発表。Meeshoはオンラインマーケットプレイスで、販売者と購入者をWhatsAppなどのソーシャルメディア経由で交渉できるようにしている。すでに中小企業、個人を含む約200万人が出店しており、主にアパレル、家財道具、家電などの商品が取り扱われている。
2018年に、GoogleとFacebookがインドEC市場に本格参入しましたが、シェアを伸ばせず苦戦している状況です。そのためFacebookは打開策として、4月に「打倒Amazon・Walmart」を掲げEC事業を急速に拡大している現地事業者Reliance Jio Platformsに出資しました。同社との提携、そしてインドにおけるFacebook 利用者の多さ(世界最多の2.8億人)をうまく活かし、EC市場でシェアを伸ばすことができるか注目ですね。
■イギリス:ASOS、過剰返品者への対策として返品ポリシーを変更
イギリスでは、EC利用者の約4割が返品経験を持つなど、返品率は欧米の中でも比較的高く、EC事業者の間で深刻な問題となっている。こうした中で、2019年4月にASOSが新たな返品ポリシーを発表し、返品対象期間の延長や返品時期に応じた返金対応を始めた。また、一方では、過剰返品状況を改善するために「シリアルリターンブラックリスト」を導入し、購買・返品パターンが不可解な顧客に対してアカウントを閉鎖する処置を取るとした。こうした過剰返品者への対応強化は、小売業界全体に広がりをみせている。
ASOSがシリアルリターンの撲滅のために、購買・返品パターンの分析に加え、返品された商品が着用されていないかをソーシャルメディアモニタリングしていることには、とても驚きました。ソーシャル・ストーキングのようにも感じますが、返品条件を厳しくせずカスタマーエクスペリエンスを高めながら、シリアルリターンを減らすためには、こういった方法しかないのかもしれませんね。同じようにシリアルリターンに苦戦する企業の取り組みも気になりますね。
■ポーランド:eobuwie.pl、デジタルを駆使した最適な商品レコメンドで注目を集める
地場の靴専門ネット通販サイト「eobuwie.pl」は、デジタルを駆使したオムニチャネル販売で急成長している。同社は年々100%成長を遂げ、2017年時点の売上高は、約6億ズウォティ(約1億6,000万ドル)。2016年に地場大手靴専門小売のCCCに買収されてからオフラインでの展開も加速させている。同社の特徴としては、約500ブランド4万商品の3Dモデルを構築しており、専用機械で足をスキャンすると、取り扱い商材のなかから足の形にあった商品をレコメンドする仕組みを提供に加え、地域限定でアフターサービスの充実にも取り組んでいる。
eobuwie.plは、実店舗に足をスキャンするテクノロジーを導入することで、足の形状にあった靴を、店舗を含む全ての在庫からレコメンドしています。日本でも、一部靴専門店で同様にテクノロジーの導入もみられますが、店員が測定結果を参考に店舗にある商品を薦めてくれることがほとんどです。そのため、店舗在庫に依存せず、またデータに基づいたレコメンドを行うeobuwie.plは一歩進んでいるように感じます。
<編集後記>
『海外ECハンドブック2019』でついに6冊目となった海外ECハンドブックシリーズです。毎年苦労する点としては、実際に提供されるサービスを体験できないなかで、各市場の消費者のライフスタイルや消費行動を踏まえて、消費者目線で各事業者の提供するサービスによって、どれだけ買い物体験が向上するかを理解することです。特に、2019年版については、東欧や南アフリカ地域を含む複数地域を新た追加したため、今まで以上に苦労しました。その代わり新しい発見が多く、海外ECハンドブックを執筆する上での一番の楽しみでもあります。2020年は、年初よりコロナの影響を受け、世界的に消費行動が大きく変わっています。その影響もあり、市場を問わず大手ブランドや小売がデジタル投資を急ピッチで進めている傾向があります。この状況がどれだけ続くか、まだ、わからない状況ではありますが、調査部としてはアフターコロナを見据えて、消費行動がオンラインで完結することが主流となっていくのか、逆に外出自粛の反動を受け、これまでよりもリアルな体験を求め実店舗での買い物が増えていくのか、こういった消費者行動の変化に注目したいと思います。
■ネット担当者フォーラムで、執筆担当のインタビューが掲載されております。
『世界30の国・地域のECデータ&市場概況・トレンド動向などをまとめた『海外ECハンドブック2019』のスゴいところとは』
■世界のEC市場を解説した書籍「海外ECハンドブック2019」(出版:株式会社インプレス)
トランスコスモスでは、著書「海外ECハンドブック2019」を発刊しています。各国のEC市場規模や詳細なEC市場データ、越境EC市場規模およびEC利用者の推移、EC市場データランキングなど、世界のEC市場がわかる1冊でAmazonで販売中です。ご購入はこちらから。
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