【スペシャル】海外カンファレンス「IRCE」参加レポート!

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Amazonが独占する⽶Eコマース市場において、新たなゲームチェンジャーと期待を集めるWarby-ParkerなどのDNVBの取組みが注目だよ!

6月5日から6月8日にかけて、米シカゴでIRCE(Internet Retailer Conference & Exhibitionが開催されました!  

◎世界最大規模のECイベント、IRCE 

 今年も米シカゴで開催された世界最大規模のEコマースイベントIRCE(Internet Retailer Conference & Exhibition)に参加してきました。このイベントでは、Amazon出店事業者向けに売上を伸ばすコツ、アメリカの大手小売が注目するテクノロジー、B2B Eコマースの最新動向などに関するワークショップ、大手Eリテーラーのデジタル化の取り組みや人工知能やAR/VRなどの最新テクノロジーの活用事例など計170以上のセッションが開催され盛沢山でした。全体的な印象として、昨年と同様にAmazonは多くの小売から脅威とされ、どのように「付き合っていくか」がテーマとなっていました。一方で、今年の特徴としては、先進ブランドの間ではAmazonや競合を意識することよりも「いかに上質な顧客体験(CX)を提供していくか」に重きを置き始めており、様々なセッションで「顧客志向」や「パーソナライズ化」が繰り返し取り上げられました。ここでは、基調講演からWarby-ParkerとHouzz、そして数ある一般セッションからは、最も熱意溢れ印象に残ったTillysのAR/VRの最先端活用事例を紹介します。

カンファレンスの様子

<カンファレンスの様子>

◎Warby-Parker:オンライン・オフラインでのシームレスなショッピング体験の実現

 カンファレンス初日、基調講演のトップバッターとして大歓声のなか迎えられたのは、最近アメリカのミレニアル世代の間で最も支持されるメガネブランドWarby-Parkerの創業者Dave Gilboa氏でした。Gilboa氏は、Warby-Parkerの創業秘話から、現在の課題や取り組みについて紹介しました。

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<Warby-ParkerのDave Gilboa氏による基調講演の様子>

 Warby-Parkerは「メガネをよりファッショナブルに、気軽に身に着けられるアイテム」にしたいというGilboa氏の個人的な理由から設立されました。2010年の創業当時、メガネを買うには約700ドルとiPhone(当時400ドル)よりも高額で、気軽にメガネを買い替えられない状況。そこで、より安価でスタイリッシュなメガネの販売のためオンライン販売を始めました。

 創業一日目から、ファッション雑誌GQなど大手メディアでの宣伝効果もあり、注文が殺到したそうです。あっという間に試着用メガネの在庫がなくなり、ウェイティングリストも数か月待ちとなる盛況でした。早くメガネを試着したいという顧客からの要望を受け「まずは自分たちの家に近所の顧客を招き、試着できるようにした。そのためWarby-Parkerにとって店舗展開を行うことは特別なことではなかった。」と試着ニーズに対応するための実店舗展開は、Gilboa氏にとって自然の流れであったと語りました。

 目下の課題は「オンラインとオフラインの体験をいかにシームレスにするか」としており、オンライン・オフラインの共通ID化を採用し、チャネルを横断して、気に入ったメガネを探し、好きな場所・タイミングで購入できるようにしています。その他の取り組みとしては以下が挙げられます。

  • iPhone Xの顔認識システムを活用したバーチャルメガネ試着サービス:iPhone Xの顔認識技術を活用し顔の形状に関する約3万点のデータを取得し、店舗での店員接客のように、骨格にあったデザインのフレームをレコメンドするサービス。
  • オンライン視力測定サービス:アメリカではメガネをつくるためには処方箋が必須となっている。オンラインや店舗でメガネをすぐにつくれるように、事前にスマートフォンやPCで視力測定を行い、顧客の代理で眼科医に提出し、処方箋を取得するサービスを提供している。

 Warby-Parkerは「顧客体験」を最重要視したことで、創業当初のオンライン専業ブランドとしてのビジネスモデルにこだわることなく、早い段階でオムニチャネル展開へと舵を切ることに成功し、短期間でメガネ業界の大手ブランドが脅威とするほどの存在にまでに成りえたんですね。

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<オンライン・オフラインでのID連携>


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<iPhone Xを使ったメガネのレコメンデーション機能>

◎Houzz:コミュニティ第一主義でのサービス提供

 カンファレンス二日目の基調講演に登壇したのは、長身が目立つ住宅関連サービスHouzz創業者Alon Cohen氏でした。Cohen氏は自身がリフォームを行った際、情報収集やリフォームの依頼・業者との日程調整など複数のプロセスを進めることがとても面倒くさいと感じたそうです。そこで、リフォームをより簡単で楽しい体験に変えるために「リフォームのインスピレーションを得る」「業者を探す・発注する」「必要な家具を調達」とこれらのプロセスを同一プラットフォーム上で完結できるようなHouzzを設立しました。

IMG_0641.JPG<HouzzのAlan Cohen氏による基調講演の様子>

 Houzzは、当初住宅リフォームのクチコミコミュニティとしてスタートしたため、コミュニティの要望に基づいてサービス拡大を進め、リフォーム事業者とのマッチングサービスや2014年より家具・雑貨に特化したオンラインマーケットプレイスを展開するに至りました。ちなみに、コミュニティの9割以上はマイホームを持ち、8割は半年以内に家の購入を予定し、また7割は年内に家のリフォームを計画しているそうです。

 オンラインで家具を購入する際、採寸の手間がかかること、また、写真と実物のイメージが異なることが度々おきます。そのため、Houzzでは「テクノロジーの活用で、家具購入の利便性を高めること」に取り組んでいます。取り組みのひとつとして、アプリに搭載するARを活用したバーチャル家具配置機能を紹介しました。提供開始当初は見た目も悪く、リアリティーに欠けていましたが、今ではほぼ本物と見間違えるほどのクオリティとなっているそうです。この他の取り組みとして以下が挙げられます。

  • AIを活用した商品レコメンド:アプリでは、モデルルームや商品をタップすると、AIのディープラーニングで、商品のテイストや色など利用者の好みを学習し、より適したものを絞って表⽰している。
  • Sketch:同社が販売する家具の画像を用いながら、リフォームのデジタルイメージを描くことができる機能。

 Houzzは「失敗を恐れず挑戦を継続すること」に取り組み、オンラインマーケットプレイスを開始し以来、約3年間で月間アクティブ利用者数が4,000万人以上、GMVが約70億ドル規模まで成長。これは、Amazon、eBay、Walmartに次いでアメリカで4番目の規模です。また、コミュニティの要望を受け海外展開も順次拡大しており、現在、日本を含め世界40か国以上に進出するグローバル企業に成長しています。

<Houzzの紹介(動画)>

<情報源:Houzz公式YouTubeアカウント

◎Tilly's:VR活用で、店舗ショッピングを楽しい体験へ

 数多くの一般セッションのなかでも、熱意溢れるトークが印象的だったのはセレクトショップTillysのChief Digital Officer Jon Kubo氏のプレゼンテーションでした。彼は、自身が手掛けたイベントのデジタル化について発表しました。

 Tillysでは、イベントにデジタルを取り入れることで、全店舗での展開を可能とするほか、さらに顧客とのインタラクションを増やす仕掛けも作っています。「誰もやっていないことにチャレンジする」をモットーに取り組んだ結果、世界初となる"AR Shopping Window"を実現しました。"AR Shopping Window"では、ARを活用し、店舗内に恐竜が歩き回る、スケーターが壁を滑り渡るなどのアニメーションを投影しました。この様子は、ショーウィンドウを通じて店舗外にも配信し、通行人が思わす足を止めて店舗に入りたくなるように仕掛けました。これにより同店舗の来店者数が通常と比較して30%増えたそうです。

 Kubo氏は、自身でも積極的に新しいテクノロジーや他社のデジタルキャンペーンなどを試しながら、いかにTillysでも活用できるかを考えているそうです。その際「前例がないから諦めるのはナンセンスだ、自分たちで事例をつくりあげれば良い」と新しいことへのチャレンジに対する熱い思いを語りました。"AR Shopping Window"以外のイベントのデジタル化の取り組みとして以下を紹介しました。

  • VRによる映画とのタイアップキャンペーン:2017年春には映画"Kong"とのタイアップイベントで、SamsungのVRヘッドセットを活用。映画コンテンツをVRで体験できるようにした。
  • 自社アプリに搭載したAR機能で、YouTuberとのタイアップコンテンツを配信:"Tillys' Shonduras AR Scavenger Hunt"というBack To School(新学期に備えて必要なものをそろえる)キャンペーンを実施。若年層の間で人気なSnapchat/YouTubeインフルエンサーのShondurasとタイアップし、店舗内に設置したARステッカーを使いShondurasの限定動画の配信することで、来店促進やアプリのダウンロードを狙った。 

 Tillysは多くの顧客が楽しめるイベント実現のために「誰もやっていないことにチャレンジする」のモットーでテクノロジー活用に挑戦した結果、世界初となる"AR Shopping Window"を実現できたのですね。

<AR Shopping Windowのイベントの模様(動画)>
<Tillys' Shonduras AR Scavenger Huntのイベントの模様(動画)>

<情報源:Tillys公式YouTubeアカウント

<企業一覧>

  • Warby-Parker:2010年創業のニューヨークを本拠地とするメガネブランド。ミレニアル世代をターゲットとし「アンチ・高級ブランド」路線を打ち出している。広告費用を削減することで、安価で高品質な製品の製造・販売を行い、95ドルの一律価格で販売。2017年GMVは約2.5億ドル。2018年2月時点で約64店舗を展開し、年内に100店舗まで増やす計画。
  • Houzz:2009年創業の世界最大の住宅リフォームコミュニティサイト。2014年にマーケットプレイス事業を開始し、今ではアメリカのオンラインマーケットプレイス トップ5にランクインするほど利用が伸びている。2017年GMVは約70億ドル。
  • Tillys:西海岸を中心に展開するセレクトショップ。現在、約221店舗を展開している、取り扱い商材の約7割がAdidasやNike、Vansなどの大手ブランド中心で、3割がプライベートブランドとなっている。

<関連情報>

 今年は、トランスコスモスアメリカ(TCA)もIRCEに出店していました。「ECとデジタルマーケティング」および展示会の模様についてレポートしております。詳細についてはこちらから御覧ください。

TCAブログ画像

 今年のIRCEでは、全体的に「いかに顧客の声を吸い上げること」や「上質な顧客体験(CX)を提供」がテーマとされ、3社についてはデジタルをうまく活用することにより、新しいショッピング体験に成功しています。共通しているのは、各社競合を意識するよりも、顧客のニーズに向き合いながらサービス提供している点が挙げられます。その際失敗を恐れず、新しい取り組みに挑戦し「Trial & Error」を強調していたことが印象的でした。特に、Warby-Parkerに代表されるオンライン専業ブランドは、欧米では最新テクノロジーを活用しデジタル化を積極的に推進する、いわゆるDigitally Native Vertical Brands(DNVB)※が、単にデジタル化による業務効率や販売成果に主眼をおくものではなく、「顧客体験の最大化」におくもので、従来のビジネスプロセス自体をも変革する「デジタルトランスフォメーション」の先進事例として注目を集めています。Digital Commerce 360によれば、アメリカの売上 Top 1000 Eコマースサイトのうち、DNVBは75ブランドがランクインするほど急成長しているそうです。ちなみに、IRCEは来年からGlobalShopとRFID Journal LIVE! Retailと合同開催され「RetailX」としてリニューアルされ2019年6月25-27日開催されます。今までのEコマースに加え、リテールテックの最新動向についても紹介されるなど、盛りだくさんな内容となるようです。たのしみですね。

(定春55号)

※カンファレンスでは、DNVBを「自社Eコマースサイトで販売し、直接顧客とタッチポイントを構築しながら体験改善に取り組む」とし、Warby-Parker、マットレスメーカーCasper、アパレルEverlaneを例にあげました。なお、DNVBを最初に提唱したのは男性アパレルブランドのBonobosの創業者のひとりAndy Dunn氏で、同氏は「DNVBは顧客体験にフォーカスし、Webサイト中心に"トランザクションを行う"、"顧客の意見を吸い上げる"、"ストリーテリング"を行う」と説明しています。

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